子供連れ去り

ハーグ条約の判断は国内の子供連れ去りにも影響するか?

ハーグ条約の最高裁判決の与える影響は?

国境を越えた子供の連れ去り防止を規定したハーグ条約に基づいて裁判所が行った、子供の返還命令を無視して従わないのは違法だとして、海外在住の夫が子供の引き渡しを日本在住の母親に求めていた裁判の最高裁判所の判決が初めて下されました。

最高裁判所は父親の訴えを認めるべきであるとして、父親側が敗訴した1審判決を破棄して2審を行った名古屋高等裁判所に差し戻しを行いました。

最高裁判所は裁判所の返還命令に従わずに、子供を自らの保護下に置くことは、特段の事情がない限り著しく違法な身体拘束に当たるという初めての判断を示しました。

我々も何度も遭遇してきていますが、日本国内では、子供を連れ去った親がハーグ条約に基づいて行われた裁判所の返還命令に従わないケースが多く視られており、最高裁判所は条約の手続きを順守しなければいけないことを国内に強く促した形であると言えるのではないでしょうか。

最高裁判所の判決によれば、裁判となっていたのはアメリカに住んでいた日本人の夫婦だということです。

2016年に母親が一方的に息子を連れて日本へと帰国したために、父親がハーグ条約の国内実施法に基づいて東京家庭裁判所に息子の返還請求をしたところから始まっているようです。

東京家庭裁判所は息子を父親に返還することを命じたのですが、母親がその命令に応じることはなく、やむなく強制執行が行われたようですが、その強制執行させも母親が拒んだために今回のように最高裁判所にまで進むような裁判となったようです。

1審の名古屋高等裁判所金沢支部では父親の請求は息子は日本にいることを望んでいるとして請求が退けられていますが、今回の最高裁判所の判決では、息子の年齢が11歳であることを考慮して母親に依存しなければ生きていけないことを理由として、子供の意思は本当の意思ではないとして高等裁判所に差し戻すことにしたようです。

裁判では数人の裁判官の意見が割れることも多いのですが、今回の決定は5人の裁判官の全会一致での判断ということも、今後の子供の連れ去り問題に一石を投じる結果となったのではないでしょうか。

ハーグ条約とはどのようなものか?

交通手段の発達により、世界的に人口移動や国際結婚が増加したことにより、1970年代頃より、父親または母親の一方の親による子供の連れ去りや監護権をめぐる国際裁判管轄の問題を解決する必要があるとの国際的な認識が高まってくるようになりました。

そこで、このような問題を解決するためとして1980年に国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)が作成されました。

2017年の10月現在、日本を含めて世界の98か国がハーグ条約を締結しています。

ハーグ条約には2つの仕組みがありますが、ここでは簡単に紹介しておきます。

①子供を元の居住国へ返還することが原則

②親子の面会交流の機会を確保すること

国内の連れ去り問題にも注目が集まるか?

今回は海外と日本ということで、ハーグ条約という厳しい条件が存在していましたので、連れ去られた父親に対して有利な判決が下されましたが、日本国内では子供を連れ去られてつらい思いをしている父親や母親がたくさん存在しています。

そしてそのほとんどが泣き寝入りといった状況が現在は続いています。

今回の判決を契機に日本国内の連れ去り問題にも焦点が当たっていくといいのではないかと考えます。

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